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薬草園歳時記(9)茶草場と薬草園のベチバー 2021年10月 


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ベチバーの葉(薬草園提供)

ベチバーの花(薬草園提供)

 威廉希尔中国官网_世界十大博彩公司_中国体彩网官方推荐のブログ、「静岡の大地(その7)御前崎とその周辺」で、茶草場の草を刈る女性のことを書いた。その中で、「茶草場にはさまざまな植物があるが、ここでは茅(かや)に似た葉の長い植物が植えられている。穂が出ないので扱いやすいというが、植物の名は不明のままである」と書いて、次の写真を載せた。

写真

 それについて、公開とともにすぐ重要なコメントを、静岡県立大学短期大学部の職員である松井基幸氏がメールで送ってきてくれた。「カヤのようなものはこれではないでしょうか?」と、「GKZ植物事典」の「カスカスガヤ」のサイトを紹介してくれた。
 さらに、「こどもの頃、茶原の境に風よけとして植えられていたのを曾祖父らに「ペチペル(ペシベル)」だと教えてもらった記憶があります」とあったので、さっそくいろいろと調べることができた。お婆さんから聞いた草の名を「テシベル」と聞き取ったので、いくら調べてもうまく見つけられなかったのである。
 松井氏から教えてもらったサイトには、「カスカスガヤ」の和名はインド名の「Khus」の音読みからとあり、英語名が「Vetiver root」または「khus khus」とあった。そして掲載された写真には「撮影地:星薬科大学薬草園」とあり、あらためて静岡県立大学薬学部の薬草園の山本羊一氏にLINEで聞くと、「ありますよ! ベチベル」という返事が即座に帰ってきて、この記事を書くことになった。

 山本氏によれば、ベチパーは精油など含まれているが、レモングラスのような香りは全くないという。普通、精油が含まれるものは匂いが強いが、それにあてはまらないようである。見た目には薄のようだが、葉の先が折れて縮れるのが特徴である。薬草園で山本氏は花を見たことはないというが、薬草園に保存された写真がある。
 種子繁殖は花がないとできないので、薬草園では株分け(栄養繁殖)などで維持管理している。年に一回は刈り取って、株の上昇と倒伏を防止する。倒れて根が切れて水を吸い上げられなくなって枯れてしまうからである。刈草は干してマルチング材にする。

2021年10月19日のベチバー(山本羊一氏による)。

刈り取ったベチバーをマルチング材にする(山本羊一氏による)。

 ベチベルあるいはベチバーは、イネ科オキナワミチシバ属カスカスガヤで、インド原産のイネ科の多年生草本である。名前は、タミル語の「まさかりで刈る」の意味を持つ「Vetiverr」による。草は2~3mになり、複数がまとまって大きな株を形成するため、薄に似ている。 以前は日本でも生産されていたが、現在ではほとんど生産されていないと、フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』の説明にある。それが茶草場で守り継がれていたということが今回わかった。
 「葉にはあまり芳香がないが、根に強い香りがあり、精油は根茎から抽出される。香料は多くの香水に高級感のあるウッディなベースノートとして広く用いられている。利用例としては、シャネルNo.5のベースノートとして使用されている。なお、同属の植物としてオキナワミチシバが南西諸島に分布するが、これはごく背丈の低い草で、特に香りもなく、日本国内では特に利用されていない」とWikipediaにある。
 産地は、インド、ブラジル、ハイチ、ミャンマー、インドネシア、マレーシア、中国。 最大の生産地はインドである。ベチバー精油は、根茎を水蒸気蒸留することにより得られ、採油量は、1~1.5%ほどで、通常、乾燥した根を用いる。パチョリに似た、土臭いような香りが特徴である。持続して摂取した場合、体内のアンモニア数値が減ることから、体臭などの消臭効果が期待されるという。
 香料を調べると、「ベチバーオイル」「ベチベルミスト」「ベチバーアロマ」などとたくさん販売されていることがわかった。「ベチバーの細根から丁寧に抽出した、ウッディで土のような深い香り」「ベチバー?オーガニック ?4,840税込/10ml」というのもあり、高級感がある。
 沖縄県では、海洋汚染の原因の一つに畑地からの赤土流出がある。この赤土流出を防ぐためにベチバーがグリーンベルトとして広い地域に植栽されている。これを資源として精油を製造する研究も行われている。ベチバーの精油に関する化学的研究は、古くから行われているという。

 薫風株式会社代表取締役片山恵理氏によると、福岡県八女市星野村に、八女茶の伝統玉露を作り続けてきた古民家とベチバーの深い縁があるという。九州北部豪雨によって代々伝わる古木の茶の木が流された。インドネシアから輸入されたベチバーが土壌流出を止めるために、海外や沖縄で役に立っていることを知り、専門家を探して星野村へ招き、越冬という課題に取組んで解決した。それが今では、作り手と創る人を繋ぐ 国産ベチバーブランド 「SAnoSA」という製品にまで発展している。

 「取材を通して、 南インド原産のベチバーを気候の違う日本で栽培するまでの苦労や 、 原産国に足を運んでベチバーについての知識を学んだ事など様々な お話を聞くことが出来ました。 薬草の本を何冊も集めて研究したり、 薬草に詳しい方にお話を伺いに行ったりと商品にかける情熱がとて も凄いという印象を受け、 是非この商品を多くの方に使っていただきたいと思いました。 そのためにもPRに力を入れて、 ブランド認定されるように頑張っていきたいです!」
 これは、久留米大学経済学部の学生、E.T氏が、現地を取材したときの報告である。

 このように、ある日、ふと出会った植物を手がかりに、さまざまなことを知ることができるという体験をした。その体験の一端を知っていただく機会を与えてくださった松井基幸氏に、あらためて深く感謝の意を表します。また、薬草園の山本羊一氏には貴重はご意見をいただいた。


尾池 和夫


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薬学部の薬草園サイトはこちらからご覧ください。
https://w3pharm.u-shizuoka-ken.ac.jp/~yakusou/Botany_home.htm

キャンパスの植物は、食品栄養科学部の下記のサイトでもお楽しみいただけます。
https://dfns.u-shizuoka-ken.ac.jp/four_seasons/

下記は、大学外のサイトです。
静岡新聞「まんが静岡のDNA」の記事でも薬草園を紹介しました。
https://www.at-s.com/news/article/featured/culture_life/kenritsudai_column/742410.html?lbl=849

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